いまだ就活生に根強い人気のあるSIer(システムインテグレータ)。
SIerというのは、雑に言うとシステム開発会社のことでして、クライアント企業からの「こんな感じの仕様でシステム作ってな」というオーダに「ははーーっ」とひれ伏しつつ、せっせとシステムを開発して納品するという仕事を食い扶持にしています。
大手のSIerともなると、IT業界の中では比較的給料が高くて福利厚生も充実しているので、「こらええわ」ということで、サクッと大手SIerに入社する人が多いのですが、正直、「こんなはずじゃなかった…」と絶望する人が後を絶えません。
絶望する人の多くはキャリアパスのことで悩んでいて、概ね「こんな感じのキャリアパスしかないの…?」という感じです。
本記事では、某大手SIerに約12年勤務する僕が、SIerでのキャリアパスの実態について解説します。
「SIerに就職しようとしているんだけど、キャリアパスってどんな感じなのかな?」
「とりあえずSIerに就職して、スキルを身につけたら転職しようと思ってるんだけど、みんなどんなところに転職しているのかな?」
上記のような就活生やSIer若手社員の参考になれば幸いです。
大手SIerでのキャリアパスを解説します
SIerの職種は大別すると2つに分かれます。
- 営業職
- 開発職(ITエンジニア)
これら以外にも、スタッフ(総務、法務など)や研究開発職もあったりしますが、やはりメインの職種と言えば上記の通り、営業職と開発職の2つかなと思います。
営業職のキャリアパスは?
営業職のキャリアパスはこんな感じです。
営業担当者→営業リーダ→営業マネージャ→幹部
SIerでの営業は、AWSやSalesforceみたいに自社のソリューションを営業する「ソリューション営業」ではなく、特定の顧客にべったり張り付いてひたすら御用聞きをする「顧客営業」です。
SIerでの「顧客営業」とはどんなイメージかと言いますと、特定のクライアント企業の元に足繁く通い、「何かお困りごとはありませんか?」と御用聞きをしまくり、「実はね…」みたいな話を引き出し、システム開発の受注チャンスを虎視眈々と伺うという仕事です。
最初は営業担当者として営業リーダの先輩にくっついて、クライアント企業を訪問しつつ、慣れてきたらメインスピーカーとしてシステム開発の提案をしてみたりと経験を重ねていきます。
営業担当者として経験を積んでいくと、晴れて営業リーダに昇格し、営業担当者を引っ張っていく現場責任者になります。
順調に実績を積み重ねていくと、今度は管理職に昇任となり、営業マネージャになります。
その後、順調に出世コースを歩んでいくと、幹部や役員への昇任も狙えるという感じですね。
このように、SIerの営業は、基本的に「御用聞き営業」しか道がないため、以下のようなキャリアを目指す場合は転職を余儀なくされます。
- 「サービスや商品の企画をやりたい!」「ソリューション営業をやりたい!」
→Web系の会社、事業会社に転職 - 「コンサルをやりたい!」
→コンサルティングファームに転職
最近、自社でITサービスを企画・開発する、いわゆるWeb系の会社が増えてきたので、「企画をやりたい!」と言って転職する人が増えてきている印象です。
開発職(ITエンジニア)のキャリアパスは?
一方、開発職(ITエンジニア)のキャリアパスはこんな感じです。
<業務/アプリ系>
見習いエンジニア→チームリーダ→プロジェクトマネージャ→幹部
<インフラ系>
見習いエンジニア→チームリーダ兼シニアエンジニア
開発職と言いましても、業務とかアプリ寄りのエンジニアと、サーバやデータベース等のインフラ系のエンジニアの2パターンがあります。
業務/アプリ系エンジニアのキャリアパスは?
まず、アプリ系のエンジニアのキャリアパスから説明します。以下、再掲です。
見習いエンジニア→チームリーダ→プロジェクトマネージャ→幹部
アプリ系のエンジニアは、世の中的にはいろんなパターンに分かれます。たとえば、業務設計を担当する業務系エンジニア、WebやアプリのUI設計・構築を担当するフロントエンジニア、スマホアプリを開発するスマホアプリエンジニアなどです。
しかし、SIerでは、基本的にプログラム実装の工程を外注してしまうことと、比較的大規模かつレガシーなシステムの開発をしてきた歴史から、業務系エンジニアが圧倒的多数です。
業務系エンジニアのキャリアの場合、まずは見習いエンジニアとして経験を積むところから始まりますが、よくあるパターンとしては、いきなりテスト工程に放り込まれて、ひたすらテスト項目を消化させられます。
なぜかと言いますと、SIerなんて、ぶっちゃけテストの自動化なんて大して進んでいないので、テストをするには人手が必要なんですよね。
で、たいていテストをするための手順とか「どういう結果になればOKか」という判定基準がバッチリ整備されているので、それを見ればだれでもテストができると。
育成という意味では、完全によくない慣習だなと思いつつ、いまだにそういう育成方法がとられているのをよく見かけます。
そういった若干の不遇の時代を超えると、晴れて業務系エンジニアっぽい仕事が回ってきます。
クライアント企業から業務要件を聞いてシステム仕様に落とし込んだり、システム仕様をクライアント企業に説明したりなどです。
こうして業務系エンジニアとして経験を積んでいくと、チームリーダを任されるようになります。業務チームのリーダであり、かつ、システム仕様の現場責任者ですね。
チームリーダになると、システム設計の仕事より、クライアント企業との折衝の仕事、つまりプロジェクトマネージメント寄りの仕事が増えていきます。徐々にエンジニアの道からプロジェクトマネージャの道に移行していくわけです。
こうして、業務系のチームリーダとして順調に実績を積んでいくと、正式にプロジェクトマネージャになる、という感じです。
ここまで読むと、もしかしたら以下のように思うかもしれません。
「あれ?業務系のシニアエンジニアの道はないの?」
一応、業務系シニアエンジニアの道もあるにはあるのですが、SIerではめちゃくちゃマイノリティです。
SIerにおける業務系エンジニアのメインストリームは間違いなくプロジェクトマネージャで、出世したければプロジェクトマネージャになるしかありません。
それぐらい、プロジェクトマネージャ志向なんです、SIerは。
なので、以下のようなキャリアを目指す人は漏れなく転職していきます。
- 「エンジニアとしてスキルアップしたい!」「エンジニアの道を進みたい!」
→Web系の会社に転職 - 「もっとユーザに近いところで仕事がしたい!」
→事業会社(エンジニア職)に転職 - 「コンサルをやりたい!」
→コンサルティングファームに転職
インフラ系エンジニアのキャリアパスは?
次はインフラ系のエンジニアのキャリアパスについてです。
昔のシステム開発は、サーバやネットワーク機器を買って、データセンタに設置し、ゴリゴリ構築するという感じだったので、サーバエンジニア、ネットワークエンジニア、データベースエンジニアとしっかり職種が分かれていました。
最近では、パブリッククラウドの台頭により、簡単にサーバやらデータベースやらが構築できるようになったので、これらのエンジニアの境界が曖昧になりつつあります。総じてインフラエンジニアと呼ばれたりしますね。
とは言え、SIerではレガシーなシステムの面倒を見る仕事が数多く残っていることもあり、いまだにサーバエンジニア、ネットワークエンジニア、データベースエンジニアという職種が生き残っています。
で、SIerでのインフラ系エンジニアのキャリアパスについてですが、おおむね以下のような感じです(再掲)。サーバエンジニア、ネットワークエンジニアなどで大きな違いはありません。
見習いエンジニア→チームリーダ兼シニアエンジニア
最初は、見習いのエンジニアから始まり、経験を積むとチームリーダに昇格します。
チームリーダはインフラチームのプロジェクト管理を任されることになるので、プロジェクトマネージャ寄りの仕事がメインになります。
たいていのインフラ系エンジニアは、チームリーダとしてPM職もやりつつ、エンジニアとしても腕を磨いていくという人が圧倒的に多いのですが、たまに業務系エンジニアに転身して、そのままプロジェクトマネージャの道に行く人もいます。
逆に言うと、インフラ系エンジニアのままキャリアを歩んでいくと、その先にはプロジェクトマネージャのキャリアは存在しません。
SIerでプロジェクトマネージャになるには、業務系エンジニアを経験していないと厳しいところがあるんですよね。
で、こういったキャリアパスに物足りなさを感じる人は、やはり転職していってしまいます。
「エンジニアとしてスキルアップしたい!」「エンジニアの道を進みたい!」
→Web系の会社やインフラ系のソリューションを持っている会社(AWS、VMwareなど)、ハードウェアベンダ(Ciscoなど)に転職
最後に
最近SIerでは、人材流出が大きな問題になっています。
大手SIerのNTTデータでは、優秀なAI技術者に最大3000万円の年俸を支払う制度ができたようで、これも有望なエンジニアの流出防止策かなと思います。
かくいう僕も「そろそろSIerはいいかな?」という思いもあり、製造業の某大手企業に転職しますし…!
これから就職する人は本記事を参考にしつつ、ご自分のキャリアパスを想像してみるといいかもです。「まぁ別にいっか」という人はSIerに就職すればいいですし、「何か違うな…」という方は他の業界も見てみた方がいいでしょう。
すでにSIerに入社した人で「しまった!こんな感じなの!?やばい!!」という方は……。転職しましょう!!